大気と海のフロンティア

気象学の研究を行っている大学院生が様々な「フロンティア」に進むためのブログ

2013年度 環境科学実習① 〜前編〜

6/3~7に学部3年生対象の練習船「勢水丸」の乗船実習(1306航海)にTAとして参加しました.

航路は伊勢湾から熊野灘,途中で勝浦港に寄港して伊勢湾に戻ってくるコースでした.

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内容が多いので2回に分けて,実習の様子を紹介します.
 
 
・6/3
三重大からバスで松阪港の練習船基地に向かい,船長や航海士の方の挨拶や乗船時の説明など受けた後,勢水丸に乗船し10:30に出港しました.

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11時頃から伊勢湾内でwarm layer水温観測のテスト観測を行いました.
warm layer(Fairall et al., 1996)とは日射によって海面の浅い部分にできる暖水層のことです.日射量が多く,海が穏やかな日が多い夏季にできやすいことが知られています(e.g., Kawai and Wada, 2007).
勢水丸の海面水温センサは水深3mにあるので,表面の水温とは異なる可能性があります.これでは海と大気との熱輸送量を正確に計算できないので,表面付近の水温を正確に計測する方法をいくつか試してみました.
 
①小型CTDで計測
通常のCTDは大型のためwarm layerを壊してしまう可能性があります.そこで,直径9cm・長さ60cmほどの小型CTD(多項目水質計)を用いて表面付近の水温を計測しました.

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②ボートで船の影響の少ない場所で測定
①の方法では,船が出す熱やプロペラによって正確な水温が計測できない可能性があるので,ボートで船から離れた場所でハンディ型水温計を用いて表面付近の水温を計測しました.ただ,ボートが小さいので少しの波で揺らされて,それが大きな波を作ってしまいました.

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上2つの方法はどちらも良い結果が得られなかったので,次回の航海に向けて新たな方法を検討中です.
 
 
その後,CTDとラジオゾンデのテスト観測を行ってから伊勢湾を出て志摩半島の南に停泊しました.
ここで釣りを楽しみました.道具やエサは船員さんが用意してくれて初めての人にも親切に教えてくれました.魚群がいたらしく入れ食い状態で初めてなのに数十分のうちに5匹以上釣った人もいました!

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・6/4
海面を照らす朝日です.陸上では簡単には見られない光景を毎日見られるのも乗船観測の醍醐味の1つです.

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朝6:30からラジオ体操,船内の掃除です.身の回りのことは自分たちで毎日行いました.

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今回の新しい観測として通常ラジオゾンデは上昇するときのデータを解析に使用しますが,バルーンが破裂して落ちてくるときも電波が受信できればデータは取得できるので,ラジオゾンデを追いかけて下降時のデータも取得してみようということを行いました.
 
まず,下降時にゆっくり落ちるためにパラシュートを付けました.さらに,もしラジオゾンデに追いつくことができた時に発見しやすくするため,白いパラシュートに色を付けました.これは船員さんのアイデアで即席で作りましたが,鮮やかで良いですね.

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後はバルーンを膨らませて,このパラシュートとラジオゾンデを取り付け,放球しました.

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この後はラジオゾンデをひたすら追いかけました.事前にラジオゾンデを上げて,飛んでいく方向を調べておいたので,まずはそちらの方向へ全速力で航行しました.初めのうちは船の方が先行していましたが,あっという間にラジオゾンデに追い越されてしまい,結局100km近く離されてしまいました.データは下降時も取得でき,約900mまで落ちたところで電波が途絶えました.
 
ラジオゾンデと船の動きを図示してみました.上に飛んでいくのがラジオゾンデで色は気温,下を動いているのが船で色は水温です.東に急激に流される辺りから偏西風の影響を強く受けていると考えられます.ラジオゾンデの移動速度は船の速度と比べると圧倒的に速く,東風が吹かない限り追いつけないことがよく分かります.

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途中でイルカを見ることができました.船が作る波で遊ぶので近寄ってくるそうで,これほど間近で見ると感激です.
 
 
XCTD観測も行いました.XBTは水温だけですが,XCTDは塩分や電気伝導度も計測できます.

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夕方から黒潮横断観測が始まりました(航路図の紀伊半島沖で南北に往復している箇所).これは,船に常設された気象測器で黒潮付近で水温,風速や海から大気への熱輸送量がどのように変化するかを観測するのが目的です.1回のみの観測では解析結果の信頼性が低いので,何度も往復して多くの観測データを得ることをしました.
 
水平線近くに見える黒い帯が黒潮です.肉眼でもはっきり分かります.この中に入ると,流速が3倍以上に増えて船が大きく揺れました.
計画では黒潮北側の境界線の南北1°の間を往復する予定でしたが,船長から海が荒れているので黒潮を航行する時間を短くしてほしいと言われたため,0.8°に変更しました.よくあることですが,観測は状況に合わせて臨機応変に対応していく必要を再認識しました.
 
黒潮横断観測の海面水温,気温,風速の時系列の図です.赤線が海面水温で,水温の高い4箇所が黒潮です.このピークにほぼ一致するように気温や風速も大きくなっています.暖かい海面水温上では風速が大きくなることが指摘されている(e.g., Nonaka and Xie, 2003)ので,この結果は海洋が大気に影響を与えていることを示唆する予想通りのものです.夏は冬に比べ水温差が小さいのですが,それでもはっきり大気側に差が見られます.
もっと面白いのは,水温の大きなピークの間の小さなピークです.ここは黒潮北側ですが,再び水温が上昇しています.これは,黒潮から分かれて流れてきた黒潮反流だと考えられます.暖かい水温が大気に影響を与えるのであれば,温度の高い黒潮反流の箇所でも気温や風速が大きくなっても良いはずですが,観測結果はほとんど変化ありません.
黒潮の特徴は,高い水温だけでなく大きな流速があります.黒潮反流は黒潮ほど強い流れはありません.
ここからは勝手な推測ですが,黒潮が大気に影響を与えるというのは,高い水温だけでなく大きな流速が影響しているのではないか?と考えています.強い流れが下層大気を引っ張る?,高い波による熱・運動量輸送が活発?など何かありそうです.
現在,研究途中ですが「黒潮は単なる水温フロントではない!」ということを示すことができたら良いなと思っています.

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このように,船の常設の測器だけでも面白い考察ができます.これができるのは船を動かす船員さんの理解があったからこその成果です.毎回,机上の「理想的な」測点図を作って,船員さんに迷惑をお掛けしていますが,最大限配慮して下さるので面白いデータを得ることができました.いつもありがとうございます.

 

 
実習3日目からは後編に書きます.