大気と海のフロンティア

気象学の研究を行っている大学院生が様々な「フロンティア」に進むためのブログ

2013年度 日本海洋学会賞・岡田賞 記念講演

3/23に2013年度 日本海洋学会学会賞・岡田賞の記念講演がありました.
今年度の学会賞記念講演は大気海洋相互作用の研究で有名な方2名も受賞されました.

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※研究内容についてはメモですので,間違いがある可能性があります.正確な情報は論文などご確認下さい.

 

岡田賞時長 宏樹ハワイ大学・国際太平洋研究センター)

「大気海洋相互作用を伴う熱帯海洋の長期変化に関する研究」

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海上風データは,海面応力や熱フラックスに関係する量として海洋循環や気候変動の研究などにおいて重要です.海上風は昔から船舶に設置された風速計で観測されており,長期間にわたるデータが存在します(岩坂ら 2006).
このデータによると,20世紀後半は風速が増加傾向にあることを示しますが,これは船舶の大型化によって風速計の設置高度が上昇したことによる見かけの増加傾向であることが分かりました.この見かけの増加を除去することで新たな気候メカニズムを発見しました(Tokinaga and Xie 2011, Tokinaga et al. 2012).
 
最近の気象学の研究では,再解析データや数値モデルを用いることが多いです.それでも,現場観測データの重要性は変わりません.ただ,観測データには観測誤差が含まれます.これとどう向き合っていくかは,気象学に限らず自然科学全般に関わる永遠の課題だと思います.
観測データをよく見ないと誤ったデータを元に「大発見」をしてしまう可能性があります(私も,とあるデータで似たような経験があります).「大発見」の場合は大抵,他のデータで裏付けを行うと矛盾が生じるので間違いだと分かりますが・・・.
 
この研究では,観測誤差の含まれるデータを上手く処理して新発見をするという,面白い発想に魅力を感じました.それは,私の研究が観測データ中心であることが大きいですが,観測データを扱うとエラーデータをどのように扱うかが難しいと感じます.明らかなエラーは迷うことなく欠損値として扱いますが,観測誤差によるエラーなのか新たな現象をとらえたものなのか判断が難しいデータも多く存在します.他のデータで裏付けができない場合,さらに悩ましいです.
それでも,観測データが基本である以上,誤差と上手く付き合って新発見を行いたいと試行錯誤しています.この研究は,誤差と上手く付き合っていく姿勢の大切さを示唆してくれる気がして,関心を持っています.

 

 

学会賞見延 庄士郞北海道大学大学院・理学研究院)

「素過程から数十年スケールに及ぶ海洋大気結合変動の解析研究」f:id:yuta_ando:20130323162506j:plain

 
見延先生は,研究会などでは鋭い質問を多くなさいますし,発表もストーリーが明確です.また,私の指導教員である立花義裕先生と学生時代同じ研究室に所属していたこともあるので,個人的に親近感を持っており,今回の講演を楽しみにしていました.

 

カタイ論文ではなくアヤシイ論文を書く

見延先生は博士課程時代,当時は難しかった一流雑誌に論文を掲載することを目標にしていたそうです.この時の指導教員だった竹内謙介先生の教育方針は放任主義だったので,論文の書き方もよく分からない.だから論文の書き方を自分で勉強し,後にWebに載せたら出版社の方が目を付けて,本にもなりました.
理系のためのレポート・論文完全ナビ (KS科学一般書)

理系のためのレポート・論文完全ナビ (KS科学一般書)

 
日本人は雑誌に掲載されるためにあまりに先駆的で多くの人に受け入れてもらえないことをあまり書かないというカタイ論文にする傾向にあるが,欧米人は面白いけれどそこまで確実に言えるかまだ分からないというアヤシイ論文も多く書く傾向にあるそうです.でも世界で活躍するためにはこのような場で勝負しなければいけません.ということでたまにはアヤシイ論文も書くことが大切だそうです.
 
これは論文を書き始めた私にとって役立つアドバイスになりました.最近,とある雑誌に論文投稿し,受理されました.研究発表では自分の思っていることを好きに話しても今まで厳しい意見はもらわなかったので,論文でも同じように面白いと思ったことをたくさん盛り込みましたが,査読者の方に厳しいコメントをいただいて,削除したり表現を無難なものにしたら,かなりカタイ論文になってしまいました.査読者の方にしっかり説明して自分の意見を通す方法もあるのですが,反論する材料が不足していたので,おとなしく査読者の意見に従いました.
そんな経験から論文を書くことに躊躇したこともあったのですが,自分が面白いと思ったことは積極的に載せるアヤシイ論文も書こうと再び意欲が出てきました(もちろんカタイ論文も書きます).
 

中緯度の大気海洋相互作用研究

中緯度海洋が大気に与える影響の研究は,新学術領域研究「気候系のhot spot」を中心に最近のホットな話題ですが,見延先生はその代表的な論文をNatureに投稿しました.それまでの研究では,海面付近の大気の影響までしか見ていなかったが,気候変動を語るときには対流圏全体を見なければなりません.そこで降水量が良い指標ではないかと思って見てみたら,メキシコ湾流上で対流圏全体に影響を与えていることが明らかになりました(Minobe et al. 2008).
これは数値モデルでの結果ですが,実際に観測して結果を得る必要があります.それで,「気候系のhot spot」には観測計画が多く組み込まれているし,これがチーム全体を盛り上げるものになるということです.
 
司会の若土正暁先生が見延先生が多くの社会貢献・研究成果を出すことができた理由について,
 
・本質を見抜く力
・サイエンスに対する厳しさ
 
があったからだろうとおっしゃっていました.
見延先生は現在注目されている研究分野について昔から注目して研究をしてきた,それは今後重要になるだろうという「本質」を見抜いていたからです.また,サイエンスは定量的な議論が基本です.定量的にしっかり議論できるか,そしてデータに間違いはないのかなど細かいことを一つ一つ確認していく地道な作業が研究には必要です.これらの積み重ねが今日の見延先生の輝かしい業績につながっているとのことです.
 
私は,加えてその時々で「何かしらビジョンを持っていた」ことが大きいと思います.一流雑誌に論文を掲載する,中緯度大気海洋相互作用の研究をする,海洋物理学の重要性を社会に訴える,などその時に何をしたいかという大きな考えを持っていることで,大きな柱となって周りの状況に左右されず今すべきことが明確になっていったのだと思います.
では,私の今のビジョンは何か?それはまたの機会に書きます.