大気と海のフロンティア

気象学の研究を行っている大学院生が様々な「フロンティア」に進むためのブログ

気象講座「気象観測技術の最前線」

 8月6〜7日に筑波大学計算科学研究センターで行われた第45回気象夏季大学「新しい気象学」に参加しました.
 今回は「気象観測技術の最前線」というテーマで講義などが行われました.講義要旨はこちら


1日目(8.6)
・近藤純正さん(東北大名誉教授)「地上気象観測総論」
 近藤先生は,乱流フラックス(大気の乱流によって運ばれる熱など)を計算するときに使用するバルク係数というものの精度を向上させた方として有名です.私の研究は,このバルク係数と関わりの深いものですので,近藤先生のお話を直接聞くことができる,とても貴重な機会でした.
 気象観測では,様々な観測機器を使用しますが,そこには誤差が含まれているので,注意しなければならないとのことでした.一番難しいのは,その誤差を取り除くことです.誤差なのか,意味のあるものなのか判断するのが非常に難しいです.


・川村祐志さん(気象庁)「気象庁の地上気象観測測器」
 アメダスとして使用されている気象観測測器についての紹介がありました.風向・風速の計測方法は簡単に分かりますが,積雪はどのように測っているのは詳しく知りませんでした.ものさしを使って測っていると想像していましたが,実際は上からレーザー光を当てて,測っているそうです.


・PACS-CS,T2K-Tsukuba見学
 筑波大が所有しているスパコンPACS-CST2K-Tsukubaを見学しました.
 どちらも,気温,湿度とも低めに設定された大きな部屋に何百台ものコンピュータが設置されていました.コンピュータのファンの音とエアコンの音があまりにも大きく,会話できないほどでした.ここで,全球の気象シミュレーションモデルNICAMを始め,様々な分野の計算を行っているそうです.私の研究室でも最近,性能の高いコンピュータを導入しましたが,これらと比べると,「スパコンのかけら」でしかありません・・・.


・瀧下洋一さん(気象庁)「降水・雷・竜巻発生確度ナウキャスト」
 ナウキャストとは,局地的な激しい気象を対象にした短時間予測情報のことです.現在の予測技術では,個々の積乱雲の発生や発達を正確に予測することが難しいですが,観測データの解析や数値予報から得られるデータを利用して,ある程度予測することが可能ですので,これをナウキャストとして発表しているそうです.
 降水・雷・竜巻に関する情報を5〜10分間隔で予報するという速報性の高いものです.この情報の特徴を活かすため,どのように伝えるかが重要になってきます.野外にいるときに最も必要な情報なので,テレビ,ラジオ,Webページだけでなく,携帯電話の緊急地震速報メールのように登録しなくても配信するサービスがあると,より多くの人に伝わると思います.同時に,この情報を受け取ったときにどう行動すればいいかの情報も必要です.一刻を争う状況かもしれないので,例えば「川から離れた頑丈な建物の2階以上に避難しましょう」などと書かれていると,すぐに行動できると思います.


・小司禎教さん(気象研究所)「GPSによる大気計測とデータ同化」
 カーナビなどで使われているGPS電波は人工衛星から地上で受信するときに大気の影響を受けて屈折します.この屈折率から気温,気圧,水蒸気圧という気象要素が分かるそうです.この原理を応用して,今まで得られなかった高時間・空間分解能の水蒸気変動を数値予報の初期値に利用することで,予報精度が向上したそうです.
 身近な電波の屈折率から水蒸気変動を調べ,数値予報に応用するというアイデアが斬新でした.観測というと自分から電波を発するなど,active方法を想像しますが,このようなpassive方法もあることを知りました.GPSはアメリカが運用していますが,日本版GPSも近い将来運用が開始され,日本付近のGPS精度が上がると考えられるので,この技術を用いて予報精度がさらに向上することを期待しています.



2日目(8.7)
沖理子さん(JAXA)「JAXAの地球観測衛星による雲・雨観測の現状と将来計画」
 「ひまわり」以外にも多くの地球観測衛星があり,今後も打ち上げ計画が複数あるそうです.これらを使ってより高精度な観測データが得られるので,どのように地球を見ることができるか楽しみです.


JAXA筑波宇宙センター見学
 実物とほぼ同じ人工衛星の試験モデルが展示されていました.気象衛星「ひまわり」は,縦横3メートルほどで思っていたより小さいものでした.一方,月探査衛星「かぐや」は,高さが5メートル近くあり,想像以上に大きいものでした.人工衛星は大小様々なものがありますが,このような精密機械を地球外で作動させるという技術に改めて感銘を受けました.